つみいしのとう
「何をしているんだ?」
どこからともなく声をかけられ、きょろきょろと辺りを見回す。周囲に人影はない。
ただ、傍にそびえる神木を見て、ふう、と息を吐いた。
「石を集めているんですよ、ご神木さま」
言いながら、地に落ちている石を拾い上げていく。
ひい、ふう、みい。
「石を集めてどうするんだ、人の子」
「数えるのですよ、ご神木さま」
よう、いつ、むう。
「何を数える?」
「祓った鬼の数を数えるのですよ」
なあ、やあ、ここの。
「数えてどうする?」
「石が高く積み上がる前に、安寧の世を見たいのですよ」
拾い上げた石を、人の手があまり行き届いていない神域の陰にひとつずつ、重ねるように置いていく。
積み上げるように重ねても、不安定な石ころはからりと崩れ落ちてゆく。
「弔いのようにも見えるな」
そう零されて、積み上げる手を止めた。
「間違ってないですよ、ご神木さま。弔いと云うには少し粗末ですが、まあ、面倒なので」
積み上げた小さな石の山に、手に握られた最後の石をそっと乗せた。
ころころ、と軽い音を立てて転がり落ちたそれを、直しもせずに一瞥くれて立ち上がる。
「人の子よ。鬼を弔うなら、人も弔ってやるといいぞ」
木漏れ日から声が降る。
「人を、ですか」
しばらく考え、へらりと笑った。
「里中の小石がご神木さまの根元に集まりそうですが、よろしいので?」
「そうならないように努めるのが人の子の務めだな」
「それは違いない」
また笑い、再び石拾いを始めた。あちこちに散らばっていた小石が手元に集まってゆく。
「ひとつよりふたつの方が、必死になれそうでいいなあ」
訃報の数だけ積み上げる小石がじわじわと高さを確保し始めていくのを見ながら、息を吐いた。
「こうして石を積み上げていれば、鬼に壊されたくなくて必死になれるというもの」
頂点の石の真似をして、呟きが転がっていった。